この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ホントの唄(仮題)
第11章 縋り付き、頼む
※ ※
部屋の前、隙間から灯りの洩れるふすまを、俺はそっと開いた。
「……」
出て行った時と全く同じ――そんな背中が、部屋の片隅にポツンとしている。
やれやれという顔で、それと少し距離を置いて腰を下ろした。座机の上にある湯呑を片手に、冷めたお茶を一口、ぐっと喉に流す。
「ちょっとだけ、いい訳をしてもいいか」
「……?」
真は無言であったが、その耳を欹(そばだ)てたのが、わかる。
その様子を眺め、俺はゆっくりとその話を始めていた。
「もう、ずっと昔の話になるんだが――」
「……」
「俺がまだ学生だった頃だ。当時の俺は、同じ大学の同期生だった女と付き合っていてな――」
「……」
「あれは、調度。俺が四回生に上がる少し前のこと。その彼女が、大病を患って入院していたのは――そんなタイミングだった」
「――!」
真が徐に振り向き、俺と顔を合わせた。