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ホントの唄(仮題)
第11章 縋り付き、頼む
「大病……?」
と、真は口を開き。
「医者は手術が必要だと話したが、それで助かるとは言わなかった。よくて、五分五分……元々、彼女の身体が弱かったことを考え合わせれば、確率はそれよりも随分と低かった筈だ」
俺も淡々とした口調で、その疑問の一部に答えた。
「それで……オジサンは?」
「ああ、それがな……」
俺は自然と遠い目をして、その時の情景を思い浮べる。その時のことは人に語った覚えも殆どなく、青臭い当時の自分の姿が蘇る様でもあり、何処か気恥しいのだと思えた。
俺が大学における最終学年を迎えようとしていた、この当時。高崎の家では卒業後の俺の扱いについて、頻りに話し合われていたということ。
それは当人の意志とは、まるで無関係なもの。親父の会社に入社することは、もちろん大前提として。入社してからの配属先や、その職場での教育係に至るまで、その頃には既にかなり詳細な部分までが決定されていたようだ。
五年先に幹部候補として入社していて、元から学業が優秀だった長男の揮市の場合とは違う。不出来な次男であった俺の場合は、現場から鍛え上げようという意図がありありと。それが親父の頭の中に描かれた、俺への方針であったのだろう。
当時まだ高校生だった三男の拓実から、その話の内容を耳にしては、俺は心底から辟易としたものだった。