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ホントの唄(仮題)
第12章 高崎家の人々

 座敷の中には、確かにピリッとした緊張が広がっていきつつあった――が。

 いの一番に声を発したある人物によって、その空気は一気に緩和された。


「アラ、本当に裕司なのね。まあまあ、元気にしていたのかい?」


 無駄に広い座敷の正面、彼女は親父の隣りに座っている。長らく合わぬ間に、髪こそ上品なグレー色に変わってはいたが、どうやらその度を超えて呑気な性格はあまり変わってなさそうだ。

 俺はまず、その顔のみに向け挨拶を口にしている。


「久しぶりだね、母さん」


「全くだよ。こうして顔を合わせるのは、かれこれ五年振りになるのかしら?」


「いいや……婆さんの葬式の時以来だから、もう十五年も前だけども」


 その感覚のあまりの誤差に、俺は思わず苦笑を交えた。


「アラ、もうそんなになるのね。それにしても、裕司。貴方、その間に一度も連絡よこさないだなんて、随分と非常識だとは思わなかったのかい?」


「え、ああ――うーん、そうかな」


 俺は答えようもなく、ポリポリと頭を掻いた。


 お袋の頭の中では、俺と親父が喧嘩別れしてることを、一体どの様に咀嚼されているのか甚だ謎である。

 元々前社長の一人娘として、蝶よ花よと育てられた世間知らず。変に身についてしまったお嬢様気質と、持ち前のおおらかな性質とか掛け合わさって、実に珍妙なバランスで人格が形成されてしまったのが、俺のお袋という人であるのだった。

 まあ、相変わらずのすっとんきょうだが、お蔭で緊張は幾分と解されている。

 などと緩和するも、束の間のことだ。


 ――ゴホッ!


 これ見よがしの咳払いが、只ならぬ内心を顕わにするように――呻る。

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