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ホントの唄(仮題)
第13章 別れは劇的ならずとも
俺はたった、それだけのことを伝え終えた。
「じゃあ、帰るよ」
そして真を誘い、料理を振る舞われるのを待たず、料亭を後にしようとする。
そうした時、俺に一人ずつ近寄っては、ひそひそと話しかける、高崎家の面々とは――。
「裕司、これからはせめて――お正月とお盆くらい、顔を出してくれるんだよねぇ?」
そう言ったのは、俺のお袋――高崎多恵だ。
「え、うーん……どう、かな?」
不意の問いに、俺は期せずして宙を見つめる。
関係は回復したのかもしれないが、別に修復した訳ではないから、答えに窮する。
俺が黙っていると――
「それはそうと、そっちの元気な娘さんは、母さんに紹介してくれないのかい?」
あっさりと話題を変えてくれたのはいいが、何れにしても答え難いのだ。
「ああ、うん。母さん、悪いけども……」
「なんだい、けち臭い子だねぇ。随分と若いけれど、こんな処に連れてくるくらいだ。お前の彼女なんだろう?」
「ハハ、まさか――」
俺は思わず苦笑を浮かべ、こんな風に言う。
「この世の中ってものは、母さんが考えてるより、もう少しだけ複雑なのかもしれないよ」
「……?」
きょとんとした顔に、「また今度」と目配せして、呑気なお袋との会話を、俺はとりあえず終えていた。