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ホントの唄(仮題)
第13章 別れは劇的ならずとも

未だ笑顔に会えぬまま。
彼女はついに、電車に乗り込んでいる。
自分自身でも、素直でない自らに飽きれたようでもあり。
真はバツが悪そうにしながら、それでもドアの間近で、俺の方を振り向いていた。
合わない目線は、発車のメロディーを機に、泳ぎ出す。
「じゃあな、真」
「……」
「オーイ――なんか言えよ」
そう煽ると、真はキッと俺を睨みつける。
「この――中年! 無職! スケベ!」
「ハハ……概ね合ってるな」
俺が苦笑を浮かべた、その時。
プシュ! と音を慣らし、ドアが俺と真を隔てた。
あっ……!
その刹那、真の口が短く動く。表情が少しだけ、申し訳なさそうに変わる。
「別に、いいさ」
届かない俺の声を、ホームに置き去りにして。
真を乗せた電車が、東京へ向かって走り始めていた――。

