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ホントの唄(仮題)
第2章 緊急モラトリアム
何はともあれ俺は、彼女に詳しい事情を訊ねてみようと思った。
彼女自身がいみじくも口にしたように、彼女には俺に対して「一宿一飯の恩義」があるのだ。なにもそれを身体で払えとは望まないが(嘘ではないぞ)、少なくとも話を聞く程度の権利は主張したい。
そうして、事情を改めようとした俺を前に、彼女はまたしても臆面もなく言うのである。
「オジサン。私、お腹すいちゃった」
「……」
その屈託のない笑顔に、決して絆された訳ではない。しかしながら俺は、キッチンに立つとせっせと朝食の支度を始めていた。
二合の米を研ぎ炊飯器に入れ、『早炊き』のスイッチをオン。米が炊き上がる間に、フライパンでベーコンを炒め、其処に卵を二つ落とした。
冷蔵庫で発見した期限を二日ほど過ぎた納豆のパックを器に移すと、刻みネギを入れそれを懇ろに混ぜ合わせる。後はケトルにて沸かした熱湯を用い、インスタントの味噌汁を用意した。