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ホントの唄(仮題)
第14章 エピローグ

 八月の下旬、とある平日の昼下がりのこと――。


「ああ、暑いなぁ……」


 まだ続く残暑の厳しさにやられ、俺はデスクに突っ伏すと最早口癖と化した、お馴染みの言葉を性懲りもなく繰り返している。それを口にした処で0.1度たりとも気温が下がることはないのに、何故か言わずにはいられないのだった。

 狭い事務所にはエアコンの設備はなく、前世紀には製造されていたであろう旧型の扇風機の、そよそよとした控え目な送風が、まさに『焼け石に水』状態だ。

 その上に開け払った窓からは、今年のラストステージとばかりに、やけくそ気味の蝉の大合唱が頻りに響いた。その大音量が、更に俺の神経を圧迫している。

 この環境に適応していないのは、別に俺だけではないらしく。俺の斜向かいのデスクから聴こえたのは、中島さんからの苦言だった。


「社長……もし来年もエアコンが設置されないのなら、私、会社を辞めることになると思いますが……」


 事務員の中島さんはハンカチで額の汗を押さえながら、自らの進退にまで言及している。涼しい顔とは裏腹に、かなり参っているのは確かなようだ。


「え、うん……流石に入れるよ。じゃないと、それより先に俺が熱中症で死ぬし……」


「そんなに暑さが苦手なら、夏の初めにさっさと設置すればよかったのでは?」


「だって……今年は工場内のエアコン完備だけで精一杯。経理やってるんだから、その辺りの事情は察してくれるでしょ?」


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