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ホントの唄(仮題)
第2章 緊急モラトリアム
そんな感じで、慌ただしかった朝食を何とか終え。俺はようやくにして、当初の目的を果たさんと厳しい目つきで女を睨んだ。
「ん? オジサン、どうかしたの?」
「別に俺は、どうもしてねーよ。どうかしたのは、お前の方なんだろ?」
「なんの話?」
「今更、とぼけんなよ――――天野ふらの」
俺がテレビにて覚えたてのその名を口にした途端、それまでにこやかだった女はプイッと顔を背ける。
「その名前……嫌いなんだ」
「なんでだよ? 自分の芸名だろ」
「そうだけど……とにかく今は、その名で呼ばれたくないの!」
それは散々人をイラつかせた女が、初めて見せた不快そうな顔。
何やら事情がありそうだ。件の『人気歌手失踪事件』に至った動機とも、まるで無関係ではあるまい。
そんな風に思いながら、俺はため息交じりに訊ねた。
「じゃあ、なんて呼べばいい?」
「真」
「まこと……?」
「そう――『真実』の『真』で、まこと。それが、おばあちゃんが名付けてくれた、私の名前だから……」
真――は、やや遠い目をすると、その様に語っている。