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ホントの唄(仮題)
第3章 異常な日常の場面で

「あ? ――もう四十だよ」
俺が面倒そうに答えると、真はパッと瞳を輝かせた。
「ホント? もっと全然、若く見えるけどね」
「へえ……じゃあ、どのくらいに見えたんだ?」
ベタなことは承知で、一応そう訊ねてみるだが……。
「えっと……三十……七、くらい?」
「……」
お前からしたら、その誤差に何の意味があるんだよ? 大体、初対面の時点でしっかり「オジサン」呼ばわりしてたからな……。
そんなことを虚しげに思いつつ、しかしそれを口にしてこの話題を続けることを、俺は嫌った。どうせこの後「私のお父さんと〇歳しか違わないね」とか言われて、余計なダメージを負うことになるのだ。
それなのに真はまた予期せぬ角度から、俺を精神を容赦なく口撃した。
「ともかく――とても無職の人には、見えないよ」
ズキッ!
あ、ああ……そうだった。呑気にラーメン食ってて悪かった。そんな暇があったら、早く世間さまの為にも仕事を見つけなければ……。
不意に自分の立場を思い知らされ、俺の心理は一気に強烈な自己否定へと向かった。
「だからさ――」
それでもまだ何かを、言おうとしてる真。
「いや、もういいから」
それを止めようとする俺だったが。
構わず真は、こんな風に言ったのである。
「オジサンが私を見つけてくれて、ホントに良かった」
「――!」
その時の笑顔を、俺は卑怯だな、と思った。
何故かって? そんなの、もう何も言えなくなるからに決まってる……。
「ほら……もう行くからな」
俺は不機嫌を装うと、店を出るよう真を促すしかなかった。

