この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ホントの唄(仮題)
第3章 異常な日常の場面で

先に歩いて行く真を横目で見送ると、俺は太田を不快そうに睨み言う。
「なんか、用かよ? 久しぶりって、そんな訳はねーよな」
「ハハ、釣れないなあ。可愛い後輩なんですから、そんなに邪険にしないでくださいよ」
「もう、先輩だなんて思ってねーだろ?」
「アハハ、そーっすね」
太田はニヤッと笑い、あっさりと同意。
とまあ、こんな奴だ。俺にはもう、コイツと話す義理などなかった。
「じゃあな。まあ、適当にやってくれ」
そう話しを切り上げ、立ち去ろうとする俺だが。
その意図をまるで無視して、太田は構わずに話を続けた。
「それにしても、新井さん。また随分と、思い切りましたよねぇ」
「あ?」
「あ、いや。お気持ちは十分にわかりますけどね。それにしたって、ホントに辞めちゃうなんて。後々、絶対に後悔しますよ」
「上があんなやり方をしたんだ。それが気にくわないから、辞めた。理由ならハッキリしてる。だから、後悔するつもりもねえよ」
「流石! カッコいいなあ。それでも、ですよ。現実的に、新井さんも四十なんですよね。次の職の当てとかって、大丈夫なんですか? 万一、心変わりがありましたら、僕の方から口添えを――」
つまらないことを、口にされそうだったので――
「ほっとけ。そんな話なら、もう行くからな」
全てを言い終わる前に、俺はそれを遮った。
そして、そのまま行ってしまおうとするのだが。
「あ、そうそう」
意味ありげな太田の言葉に、期せずして足が止まっている。
「なんだよ?」
「ああ、やっぱ……これを言うのは、マズイかなぁ」
ちっ……相変わらず、ヤラシイ男だな。
何を言いかけたのか、そんなのはどうでもいい。否、それを気にすれば、きっと太田の思うツボだろう。
俺はもう振り向くことなく、足早にその場を去って行った。

