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another storys
第18章 彼岸花【陽炎】
ふらりと店に入ってきたその男は、一見何者かわからなかった。
短く刈り込み、結っていない髪。
手に持った杖とキョロキョロと彷徨う視線。
目が見えないのはすぐに分かった。だが座頭にしてはえらく整った顔立ちだった。
もちろん座頭が全員ブスというわけではないのだろうが、なんとなく、思い描いたのとは違ったのだ。

るいがその客の手を引いて空いた席に座らせると、男は人懐こい顔でにこっと笑って、

「これで何か食える?」

と懐から小銭を出した。
持ち金全部、と言った感じで、大方物乞いか乞食か…しかしそれにしては身なりも綺麗だ。
不思議、としか言いようがなかった。

料理を運んだり、合間にお茶のお代わりを淹れたり、普段通りの接客をするるいに、その男は馴れ馴れしく声をかけてくる。
所帯は持ってるのかだの、決まった人はいるのかだの、まるで気になる女に声をかけるような物言いに、るいは戸惑った。
揚句、るいが独り身だと知った男はニッと笑って、『今晩泊めて?』と言ってきた。
あまりのことに言葉を失う。
…目が見えないのだから仕方ない気もするが、定職に就かず、こうやって一晩ごと女の家を渡り歩いて生きているのだろうか…
だとしたらある意味感心する…
るいはいったんはすげなく断ったものの、そう、と男がさして気に留める風もなく店を出たのが、ちくりと胸に刺さった。



座頭…江戸時代の盲人の階級の一つ。按摩・鍼灸・琵琶法師などを生業とした。
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