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《愛撫の先に…》
第4章 《波紋…》
『江崎さんがピュアだっていう事、だから彼も…――』

中谷専務の言葉をさえぎるように結城はつぶれたパウンドケーキを手で示す。
『無駄話よりもこっちが先になりませんか?』

『はぐらかしかい?
たしか契約者とは一度きりのつき合い…――、
言わないよ。
啓輔くんが睨むと迫力あるからね。
書類は書き直してあげるから10分待っていなさい。
パウンドケーキは…今からだと…』

『あの店なら通り道ですよ、俺が買って彼女に渡しますよ』
店の名前を言わずとも長いつき合いの中谷・結城は通じあえる。

『これで良いかな?お嬢さん』
中谷のいかにもジェントルマン的な物言いに結城は苦笑した。

それから30分後に菜々美は結城からパウンドケーキの包みを受け取っていた。
『ありがとうございます』品物を大事そうに両手で抱える菜々美に、
結城は優しく笑う。

『泣き顔…怒った顔…そして俺の愛撫に身もだえる顔…だけど一番は戸惑いの顔が多い。
君の笑顔を初めてみたよ』彼はそう言って菜々美の為に助手席のドアをあけた。
巧みなハンドルさばきでスムーズに車の流れに入る結城の動作に無駄はない。
『俺に何か言いたい顔をしていますね?』

いつ彼女を見ていたのだろう?
彼には隙という単語はないのかもしれない。

『優しいんですね…』

『今日の君は素直だ』
彼は含み笑いも付け加えた。
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