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危険な香りに誘われて
第9章 虎と女帝
兄嫁が、突然出て行ったら、雄介は、きっと大泣きするだろう。
雄介は、買い物に置いて行っても泣くんだよ?
5歳って、そんな年齢なんだよ。
大好きなお母さんが、帰ってこなかったら・・・辛いに決まっている。
隠れて泣いてたのかな?
あの家に、賢也を抱き締めてくれる人は、いたのかな?

見た目は、凄く立派な家だけど、中は、冷たい北風が吹いているみたいだった。
親子愛とか家族愛とか、温かさの欠片もない寒々とした冷たい家で育ってきたんだ。
真紀の頬を涙が伝っていた。

「何で、お前が泣くんだ?」

「だってぇ」

「子供の頃の話だぞ?」

「でも、賢也、傷ついている。今も、その傷が残ってる」

ダメだ、こんな話、辛すぎて。鼻水が垂れる。真紀は、手探りでヘッドボードのティッシュBOXを探した。

「ゴメン、待って」

掴んだティッシュで鼻をかんだ。

「真紀ちゃん、泣き虫か?」

「うー、ダメなんだよ。こういう話、すごく弱いの。ごめんね」

賢也は、泣いている真紀をギュッと抱き締めた。

「お前、俺の話最後まで聞いたら、一生分の涙流しそうだな」

「そんなに辛いことばっかなの?」

涙声で聞くと、賢也は、口元だけ笑みを浮かばせた。

「さぁな。でも、今夜は、もうやめとく」

「賢也」

「ん?」

「私は、どこにも行かないから。ずっと賢也の側にいるよ」

その言葉は、賢也の心に深く沁みわたっていった。


涙が、零れそうだ。

賢也は、目を閉じて、声にならない声で呟いた。



愛してる。






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