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危険な香りに誘われて
第1章 微光
シャワーを浴び、汗を流す間も女は、ベッドで横たわっている。
ボクサーパンツだけを履いて、出てきた賢也は「さっさと起きろ」と女のワンピースをベッドに投げやった。
髪は、まだ乾ききっていない。肩に掛けたタオルに滴が落ちる。

「帰るぞ」

「もっとゆっくりしたい」

ぼやく女に冷たい視線を向ける。

「だったら、一人でゆっくりしてろ。俺は、帰るからな」

「待ってよ。ラブホテルで置いて行く気?」

信じられないと、女が慌てたように身を起こす。

「嫌なら起きろ」

椅子に掛けておいたジーパンを手に取るとさっと長い足を通した。窮屈な場所へ納めるようにファスナーを閉める。

「冷たいんだから」

ブツブツと文句を言い、女は、床に散乱していた下着を拾い集めた。

「ねぇ、また会える?」

ブラのホックを止めながら訪ねる女を無視してベッドの傍らで二つ折りの携帯を弄り始めた。
メールの受信箱を開くと、友人から3件、セフレから2件メッセージが届いている。友人からのメールだけを読み、他は削除。

「ねえったら」

「気が向いたらな」

素っ気ない返事に、女は、ふんっと鼻を鳴らした。
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