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危険な香りに誘われて
第1章 微光
やるだけやったら、後は、どうでもいい。あからさまな態度にムカついた。文句を言ってやろうかと一瞬考えたが、やめた。

女は、身支度をする間、賢也を値踏みしていた。

一度っきりの相手で終わらせるには、あまりにも勿体ない。
テレビに出るアイドルのようなハンサムではないが、男らしい濃い目の顔立ちで、背は高く、優に180を超えていた。さらに逞しい体つきが、賢也の魅力を倍増させた。

時計、財布、服、靴、どれをとって見ても高そうな物ばかりを身につけ、入室する際にチラッとのぞかせた財布には、万札がぎっしり詰まっていた。たかが二十歳そこそこの学生が、何故、そんなにお金を持っているのか、当然裕福な家庭に違いない。

おまけにセックスが、最高に良かった。そして何より、賢也には、他の男にない魅力がある。こんな条件の揃った男は、滅多と巡り合わない。このまま別れてしまうには、惜しい。
女は、気を取り直した。

「ねぇ」

携帯を見ていると女の足が視界に入った。顔を上げると、簡単に化粧を済ませた女が、立っている。

「用意出来たか」

立ち上がろうとする賢也の両肩に女が手をつく。まだ立つなと言わんばかりに。
微笑みを見せ、女は、キスをしようと身を屈めた。

賢也は、真っ赤な唇に視線を向けた。セックスする前は、キスもする。だがそれは、相手をその気にさせるか、雰囲気を盛り上げるための行為に過ぎない。どうでも良くなった今、目の前の女とキスをしたいとは、思わなかった。
女の唇が軽く触れ、賢也は、嫌悪感に顔を歪めた。

「行くぞ」

女を押しのけ立ち上がる。

「もうっ」

唇に油でも張りついているよな気持ち悪さ。
外国ブランドの口紅は、香料もきつい。
女が背を向けている間に、手の甲で唇を何度も拭う。さっき髪を拭いたタオルを掴み、手の甲についた口紅を擦るように拭きとると、使い終わったコンドームの入ったゴミ箱に投げ捨てた。

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