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果てのない海に呑まれて
第35章 始動



「ファルツ家の者だ。レオン・ファルツの代理で来た」

「かしこまりました。こちらで少々お待ちください」



ミゲルは入り口を入り、広過ぎるその空間でため息をついた



「……」



その小さな吐息さえ響くようなこの邸は、策略に策略を重ねた薄汚いもので出来ている

そんな中に–––きっとそれを最も忌み嫌うリリアが囚われているのだ



「お待たせしました。ご案内致します」



前を歩く使用人に付いて邸の主人の元へと向かう

数年前から何度目かの訪問だが、こんなにも陰鬱になったのは初めてだ



“……?”



ふと違和感を感じてミゲルは眉を顰めた



心持ちのせいではない

この邸、いつもと何かが違う–––



「……」



気になってそっと辺りを見回すが、特に怪しいところはない

使用人も、至って普通。



「……今日は何か特別なことでもあるのか」



念のため悟られぬよう、柔らかい言い方をする



「は、いつもと何ら変わりございませんが……?」


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