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果てのない海に呑まれて
第42章 真白き馬
風の吹くような奇妙な音でリリアは目を覚ました
隣にはミゲルが座り、じっと入り口の方を見ている
「何の音?」
「ケチュア人たちの雄叫びだ」
よくよく耳を澄ませば、確かにそれは人の声のようだ
だが大きな叫びではなく、低く唸るような、それでいて力強い声だった
「……」
リリアはそっと起き上がり入り口の隙間から覗く
外はまだ暗くて、ケチュア人が小さく焚く火がゆらゆらと彼らの影を写していた
「我々の祈りの詩〈ウタ〉だよ」
いつのまにか外側に立っていたリーが声を掛けた
「すまない、起こしてしまったね」
「ううん、大丈夫……祈りって?」
「大きな戦いの前に行う儀式のようなものだ。もしくは狩の前後に神に感謝し捧げるものでもある」
俺は好きではないけどね、と小さく呟いたリーの言葉までは誰にも聞こえなかった
「ケチュア人は遥か昔から自然と共に生きてきた。自然は神だ」