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果てのない海に呑まれて
第45章 全てお前の為
確かめるように短剣に触れたその手は震えていただろうが、そんなことはどうでもいい
「……」
殺せ
殺せ
殺せ–––
カタッ
微かな物音に俺は正面に目を向けた
「…ヒッ……」
睨み付けた先の角から人影が現れ、そいつは俺に怯えて引きつった声を上げた
「……」
慌てて向こうに走っていくのは
いつの間にか月の隠れた薄闇ではほとんど見えないが
俺には分かる
“…ジェーニオ様……”
まだ十を超えて間もない彼が、初めからこの真実を知っていたとは思えない
“……いや、だからなんだ”
この女を殺さない理由にはならない
それでも俺の中の血は少しばかり冷め、あたりがよく見えるようになっていた
そして冴えた頭にある記憶が–––
‘ただがむしゃらに向かっていくだけじゃ勝てないこともある。敵と己の力を見極めて行動するのが重要だ’