この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
砂の人形
第3章 過去の残り火
ようやくテルベーザに会えたのは、もう日が出てしまった朝の七時頃だった。
お客様はとっくに帰ってしまっている。意地の悪い門兵も、徐々にちりちりと痛み出す日差しから逃れて、屋根のある見張り塔に引っ込んだ。見張り塔には、侵入者を威嚇するための弓はあるけれど、逃走者を捕まえる装備はない。私は簡単に後宮を飛び出して、騎士の駐屯所へ向った。医務室の扉をくぐるとようやく、テルベーザの砂色の髪を見つけることができた。彼は壁際に置かれた長椅子の上に座って、壁にもたれかかって眠っている。
下着一枚の間抜けな恰好……でも体中傷だらけ。ふくらはぎや二の腕の裂傷は不器用に縫い付けられて返って痛々しい。両腕は赤や紫のアザが模様みたい。沢山の血を吸って固まりかけた脱脂綿が床に散らばってる。テルベーザも今にばらばらになってしまうような気がして。私は駆け寄って、彼の体に触れた。てのひらで包むように、できるだけ優しく。そしたら指先まで彼の熱で満たされて、私はその思いもしなかった心地に驚いた。
「痛いいたいいたい!」
傷口に触ったのが良くなかったのかしら。そんなに強い力じゃなかったはずだけど、テルベーザは思いっきり、私の手を振り払った。おかげで私は床に尻もちをついたわ。
「姫様! こんなところで何をしているんですか?」
「あ……あなたのことが、心配だったから。怪我、してたから」
「ああ、これですか」
テルベーザは自分の体をまじまじと見下ろして、ちょっと考えてからこともなげに言った。
「演出ですよ。あんまり簡単に勝っちゃうと面白みがないでしょう。ああいう血なまぐさい見世物が好きな奴らを喜ばすにはこういうのが一番なんです」
……よく言うわ。青白い顔で剣を振り回してたくせに。
お客様はとっくに帰ってしまっている。意地の悪い門兵も、徐々にちりちりと痛み出す日差しから逃れて、屋根のある見張り塔に引っ込んだ。見張り塔には、侵入者を威嚇するための弓はあるけれど、逃走者を捕まえる装備はない。私は簡単に後宮を飛び出して、騎士の駐屯所へ向った。医務室の扉をくぐるとようやく、テルベーザの砂色の髪を見つけることができた。彼は壁際に置かれた長椅子の上に座って、壁にもたれかかって眠っている。
下着一枚の間抜けな恰好……でも体中傷だらけ。ふくらはぎや二の腕の裂傷は不器用に縫い付けられて返って痛々しい。両腕は赤や紫のアザが模様みたい。沢山の血を吸って固まりかけた脱脂綿が床に散らばってる。テルベーザも今にばらばらになってしまうような気がして。私は駆け寄って、彼の体に触れた。てのひらで包むように、できるだけ優しく。そしたら指先まで彼の熱で満たされて、私はその思いもしなかった心地に驚いた。
「痛いいたいいたい!」
傷口に触ったのが良くなかったのかしら。そんなに強い力じゃなかったはずだけど、テルベーザは思いっきり、私の手を振り払った。おかげで私は床に尻もちをついたわ。
「姫様! こんなところで何をしているんですか?」
「あ……あなたのことが、心配だったから。怪我、してたから」
「ああ、これですか」
テルベーザは自分の体をまじまじと見下ろして、ちょっと考えてからこともなげに言った。
「演出ですよ。あんまり簡単に勝っちゃうと面白みがないでしょう。ああいう血なまぐさい見世物が好きな奴らを喜ばすにはこういうのが一番なんです」
……よく言うわ。青白い顔で剣を振り回してたくせに。