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砂の人形
第3章 過去の残り火
「やだ、やだ、やだ! 来ないで、触らないでっ……」
「姫様」
気が動転して寝台から落ちかけた私を、テルベーザが抱きとめてくれる。ずっと触れたいと思っていたのに。今は形のない恐怖でいっぱいで、その厚い胸板を拳で叩いた。それでもテルベーザは、そのまま抱きしめてくれた。何度も私を呼びながら。大きな手で、髪を、背中を撫でてくれた。彼の体温が、また、凍えきった自分の体を思い出させてくれる。そして少しずつ、その熱が私を温めていく。彼のあの視線みたいに。深く、私の中にしみこんでくる。私を溶かして。私の中の止められない気持ちを呼び起こす。
「……テーゼ……」
気分が落ち着いてくると、いろんなことに気が付いた。テルベーザの服から砂のにおいがすること。その布地の向こうから、鼓動が聞こえてくること。それが、私のと同じくらい、早く打っていること。それから。
「手が……震えてる」
「すごく嫌な予感がして」
押し殺した呼吸の合間に、テルベーザは低くつぶやいた。息が上がってる。ここまで走ってきてくれたんだ。でも、どうして。
「突然、冷水をかぶったみたいな衝撃が……すごく嫌な感じでした。そしたら急に、あなたのことが気になりました。理由はよく分からないんですけど、あなたが泣いている気がしたから」
「このところ、いつも泣いてたわ」
「知ってます。僕が泣かす分にはいいんです」
この人、何言ってるのかしら。こんな時に……二人だけの寝室で私を抱きしめながら震えてる、こんな時に。いつもと変わらない調子で、本気なのかおどけているのか、分からないことを。
「今は気に入らなくても、ペテ様のところへお輿入れしたら、きっと幸せになります。きっと僕に感謝しますよ」
「そんなことない」
テーゼの指先が、私の髪をなぞるうちにむき出しの肩に触れた。慌てて離れようとする腕を掴んでも、彼は振り払わなかった。そのまま胸に引き寄せて、手の甲にそっと、唇を押し当てた。
「きっとずっと泣くわ。今日みたいに。そしたらあなた、毎日嫌な感じになるのよ。今みたいに震えて過ごすことになるのよ」
「姫様」
気が動転して寝台から落ちかけた私を、テルベーザが抱きとめてくれる。ずっと触れたいと思っていたのに。今は形のない恐怖でいっぱいで、その厚い胸板を拳で叩いた。それでもテルベーザは、そのまま抱きしめてくれた。何度も私を呼びながら。大きな手で、髪を、背中を撫でてくれた。彼の体温が、また、凍えきった自分の体を思い出させてくれる。そして少しずつ、その熱が私を温めていく。彼のあの視線みたいに。深く、私の中にしみこんでくる。私を溶かして。私の中の止められない気持ちを呼び起こす。
「……テーゼ……」
気分が落ち着いてくると、いろんなことに気が付いた。テルベーザの服から砂のにおいがすること。その布地の向こうから、鼓動が聞こえてくること。それが、私のと同じくらい、早く打っていること。それから。
「手が……震えてる」
「すごく嫌な予感がして」
押し殺した呼吸の合間に、テルベーザは低くつぶやいた。息が上がってる。ここまで走ってきてくれたんだ。でも、どうして。
「突然、冷水をかぶったみたいな衝撃が……すごく嫌な感じでした。そしたら急に、あなたのことが気になりました。理由はよく分からないんですけど、あなたが泣いている気がしたから」
「このところ、いつも泣いてたわ」
「知ってます。僕が泣かす分にはいいんです」
この人、何言ってるのかしら。こんな時に……二人だけの寝室で私を抱きしめながら震えてる、こんな時に。いつもと変わらない調子で、本気なのかおどけているのか、分からないことを。
「今は気に入らなくても、ペテ様のところへお輿入れしたら、きっと幸せになります。きっと僕に感謝しますよ」
「そんなことない」
テーゼの指先が、私の髪をなぞるうちにむき出しの肩に触れた。慌てて離れようとする腕を掴んでも、彼は振り払わなかった。そのまま胸に引き寄せて、手の甲にそっと、唇を押し当てた。
「きっとずっと泣くわ。今日みたいに。そしたらあなた、毎日嫌な感じになるのよ。今みたいに震えて過ごすことになるのよ」