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砂の人形
第7章 遠いオアシス
長いまつげに縁取られた、黒目がちな双眸。どこか物憂げで優しい、砂漠に吹く夜風みたいな眼差し。こうして見つめられると、少しは気持ちが穏やかになる。いつも窮屈そうにしていたこの人が、安らかに生きていけるよう願うことができる。僕はそれで満足しなきゃいけない。
「もっと話してください、姫様が感じていること」
「ええ」
堅く結ばれていた口元が綻んで、無邪気な眩しさが垣間見える。でもすぐに憂鬱な眼差しが、その上に影を落として消してしまった。
「これからは……」
僕らには、これからなんてない。姫様の淋しそうな笑顔がそう言っていた。
「はい。これからは、話してください。今回みたいに一人で決めないでください。僕が気づいてなければ、今頃どうなっていたことか」
「そうね」
姫様は目を細めて、頷いた。
「テーゼを頼っても、いいのよね。昔みたいに」
「もちろんです」
いつまでもずっと僕だけを頼って、僕をずっとそばに置いてください。アルムカンのことなんか忘れてください。僕が幸せにします。そう言えたらよかった。でも一体どうやって? お宮遣えか盗賊暮らししか知らない僕が。
「食事を取ってください。僕は出発の支度をします」
「一緒に食べない?」
「いえ。僕は駱駝の上でも」
「テルベーザ」
姫様は僕を遮って、身を乗り出した。しっとりとした柔らかな指先が布越し膝に触れる。そこから、蔦が這い上るようにして熱が全身を捉えた。奔流は腰に向かって押し寄せて、とても、痛むほどに耐え難い。
「一人の食事、嫌だなってずっと思ってたの」
姫様ははにかんでそう言った。オアシスの木陰みたいに僕を癒してくれる、昔と変わらない笑顔。その信頼と共に輝く眼差しだけが、肉の欲望をなだめてくれる。荒んだ生活をしていた僕を、人間らしい気持ちにさせてくれる。遠い蜃気楼のオアシスだと、分かっているけど。
「……僕は、食べるのは早いですよ」
「食べ方くらい、主に合わせられないの?」
「僕らは先をいそぐんでしょう?」
姫様の眉がひきつり、僕を睨みつける。機嫌を損ねてしまったらしいが、姫様の不機嫌は大抵長続きしない。
「では、一緒に食べましょう。姫様も急いで食べないと、置いていきますよ」
結局僕らは天幕の中、並んで乾パンと水を取った。その間、会話はなかった。でもとても幸せなような気がした。
「もっと話してください、姫様が感じていること」
「ええ」
堅く結ばれていた口元が綻んで、無邪気な眩しさが垣間見える。でもすぐに憂鬱な眼差しが、その上に影を落として消してしまった。
「これからは……」
僕らには、これからなんてない。姫様の淋しそうな笑顔がそう言っていた。
「はい。これからは、話してください。今回みたいに一人で決めないでください。僕が気づいてなければ、今頃どうなっていたことか」
「そうね」
姫様は目を細めて、頷いた。
「テーゼを頼っても、いいのよね。昔みたいに」
「もちろんです」
いつまでもずっと僕だけを頼って、僕をずっとそばに置いてください。アルムカンのことなんか忘れてください。僕が幸せにします。そう言えたらよかった。でも一体どうやって? お宮遣えか盗賊暮らししか知らない僕が。
「食事を取ってください。僕は出発の支度をします」
「一緒に食べない?」
「いえ。僕は駱駝の上でも」
「テルベーザ」
姫様は僕を遮って、身を乗り出した。しっとりとした柔らかな指先が布越し膝に触れる。そこから、蔦が這い上るようにして熱が全身を捉えた。奔流は腰に向かって押し寄せて、とても、痛むほどに耐え難い。
「一人の食事、嫌だなってずっと思ってたの」
姫様ははにかんでそう言った。オアシスの木陰みたいに僕を癒してくれる、昔と変わらない笑顔。その信頼と共に輝く眼差しだけが、肉の欲望をなだめてくれる。荒んだ生活をしていた僕を、人間らしい気持ちにさせてくれる。遠い蜃気楼のオアシスだと、分かっているけど。
「……僕は、食べるのは早いですよ」
「食べ方くらい、主に合わせられないの?」
「僕らは先をいそぐんでしょう?」
姫様の眉がひきつり、僕を睨みつける。機嫌を損ねてしまったらしいが、姫様の不機嫌は大抵長続きしない。
「では、一緒に食べましょう。姫様も急いで食べないと、置いていきますよ」
結局僕らは天幕の中、並んで乾パンと水を取った。その間、会話はなかった。でもとても幸せなような気がした。