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砂の人形
第8章 白昼夢
でも、そんなことを言ったらきっと軽蔑されてしまう。だってテーゼは、一度は私を、本当に抱こうとしてくれた。だけど自動人形の話を聞いてからは……続きをしようとはしなかった。テルベーザが選んだのは平和だった。私じゃなかった。
故郷のないテルベーザはよく分かってるんだわ。アルムカンの城下街がどれだけ恵まれているか。その庇護からおわれた砂漠の生活は、こんなに熱くて、苦しくて、駱駝は臭いし、お尻は痛いし、景色は茫漠として自分がそこにいることさえ不安になるくらい心細い。敗戦したら、アルムカンに住むみんなが、こんな放浪生活をすることになる。それも、終わりの見えない過酷な生活を。
そんな代償、釣り合わないわね。分かってる。分かってるけど。
随分先へ行ってしまったテルベーザの背中が、涙で滲んで二重に見えた。その背中を、鉛色の暗い波がさらう。黄金の砂漠に突然暗雲が立ち込め、渦巻く暗い海が押し寄せ飲み込んでしまった。
「テーゼ!」
身を乗り出すと、駱駝が前足を高く上げて暴れた。その首にしがみついて辺りを見回す。前も後ろもすでに海に囲まれて、私と駱駝は、小さな船に乗っていた。今にも沈みそうな木の船。何かに足を引っ張られて振り返ると、そこに、ずぶ濡れの黒髪を振り乱した私がいた。
「あなた、誰?」
「逃げて! 西へ行くのよ、ずっと西のポリオーで、きっと皆待ってるから……」
「姫様!」
テルベーザの声。はっとして目を覚ます。私、いつの間に眠っていたんだろう。まぶたを開けると、目眩がするほど暗い空に浮かぶ月と、テルベーザが見えた。彼の膝の上で、私は仰向けに寝かされている。