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砂の人形
第8章 白昼夢
「そうね。私、またあの夢を見たの。暗い海で、船に乗ってる夢。私にそっくりな人がいた……逃げてって、言ってたわ。西のポリオーへ行けって」
「ポリオーですか」
「知ってる?」
見上げると、テルベーザはしばらく考えてから首を振った。
「いえ。ただ、どこかで聞いたと思ったんですが」
「そう」
「姫様は、行かれたことがあるんですか?」
「ないと思う。私は子供のころからずっと、アルムカンを出たことがないから」
「そうですか。では、海も見たことがないんですね?」
「ええ」
言われてみればおかしな話ね。私は一度も海を見たことがないのに……夢に出てくる、あの一面の濁った水を、海と呼んでいた。
「いずれにせよ、ただの幻です。深く考えないでください」
テルベーザはそう言って、遠慮がちに手に触れてくれた。安堵と一緒に、欲望が体中を駆け巡る。テルベーザの体温。体のにおい。そういうものを近くに感じると、私の体はむずがって、だだをこねる。砂避けの下で自分を慰めようとして、やめた。自分で触ったって虚しいだけで、何も満たされない。
「深夜前にはオアシスに着きます。新鮮な水を取ってゆっくり休めば、気分も良くなるでしょう。そこから北に二日ほど進めば集落があります。そこで駱駝を一頭売って、食べるものを買うつもりです」
「いつになったらルニルカンに着くのかしら」
「五日後です」
その数字は、期待していたよりもずっと短くて。私は、喉元をきつく絞められたような気がした。