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潮騒
第13章 願い ー巻き波ー
郁男は七歳になり、小学校に入る。
啓三も三歳。

ヨシは相変わらず、郁男だけを長男長男と持ち上げて可愛がり、菓子も果物も郁男にだけ与える。
啓三にも少し分けてやってほしいと何度頼んでも無駄だった。

郁男が食べて残った分なら食べても良い、と言われても、啓三にも幼いながら意地があると見え、食べ残しなど要らんと受け付けない。

戦時下で質素倹約、と言った所で、暮らし自体はそれ程変わったわけでもない。街の方では食べ物が配給制になり、食べるものに困るらしく、はつ江からは度々金が送られてきて、実家で食べ物を工面している、というような話を聞いた。近々娘たちだけ疎開もしてくるらしい。はつ江と一郎は来ないようだ。
正一郎や浩二郎が居らぬことは確かに心細くはあったが、まだ心には余裕があった。

それでも、まだ食べる部分が残った果物を棄てるのは忍びないし、菊乃自身が食べ物を粗末にするなと言われて育ったので許せない。

初めから、自分の食べられる分だけを取れ、残すな、取った分は責任を持って食べろ、と幼い頃から叩き込まれてきたからだ。
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