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潮騒
第13章 願い ー巻き波ー
郁男が食べ残し、啓三も受け付けぬ食い散らかした果物を仕方なく自分で食べながら、イライラと溜息を吐く。

このヨシの育て方はきっと、後々郁男の為にならぬ、どこかで改めなければ、そう思うのに、郁男はすでに菊乃の言うことなど聞きもしなかった。
自分勝手で弟を思いやる素振りもない。
そんなところまでヨシにそっくりで、我が子ながら憎々しく思う事もあった。

そして、啓三だけは何としても自分が護らねば、と思ったし、そんな母と祖母の確執を見て育った啓三は、幼いながら母思いで、兄ばかり依怙贔屓して自分を顧みぬ祖母を嫌った。

寝間で、風呂で、幼い啓三が心配そうに菊乃の頭を撫でてくる。

「かあちゃん、だいじょうぶ?」

小さな手を握り、菊乃は微笑んだ。
正一郎の居ない今、自分がしっかりせねば。
子供にそんな姿を見せてはいけない。
こんな時代だからこそ。
夫不在の今だからこそ。
家族で啀み合っている場合ではないのだ。
強く、賢くならねばならない。
菊乃は小さな息子の身体をぎゅっと抱き締めた。
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