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潮騒
第13章 願い ー巻き波ー
ずっと野球をしていた一郎は、肩が強いと手榴弾の投げ手として前線に配属されたということだった。

そこで、最前線で勇敢に戦ったが戦火に散った、という短い手紙が届いただけで、骨ひとつ戻らなんだ、とはつ江は綴っていた。

怒りと悲しみに震えたその文字は形が崩れて酷く読み難く、また涙で滲んだ跡も数カ所あった。

中学生の頃の面影しか菊乃の記憶には無く、その甥っ子が若い身空で戦火に散ったという事実は、どこか絵空事のようで、俄かには信じられなかった。

この戦争が、我々にもたらすものは一体何なのか…
数多の金を、命を失い、その先に得るものは一体何なのか…


必ず帰ってくると誓った正一郎とて、無事とは限らない。
この戦争が、一日も早く終わりますように…
そして、どうか、生きて帰って…
浩二郎も、良太郎も。
一人も欠けることなく、皆…
はつ江の手紙を握り締め、菊乃は祈った。
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