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潮騒
第15章 食卓の風景 ー波間ー
せめて、後方部隊の退却命令が伝わっていれば、と願うしかなかった。
その情報が正確に伝われば、自分たちも這う這うの体で逃げることに専念できたやもしれぬ。

だが、もしそれがきちんと伝わっていなかったら…?
来もせぬ援軍を待ち続け、腹を空かせて、それでも戦ったのだろうか…自分たちが見捨てられたことも知らずに…

否、若しかしたら、見捨てられたと知って尚、最後の一人まで、敵兵に擦り傷なりとも負わせようぞと闘ったかも知れない。
…それが、祖国の勝利に繋がると信じて。
溺れた者が藁に縋るように…
無駄だ、と判っても。
所詮犬死だと、悟っても。
そうするしか、なかったかのもしれない…

きっと、あちこちでそんな不憫なことがあったのだろう。
終戦まで生き延びたとしても、怪我や病気を抱えていれば、引き上げ船を待っている間や帰る途中に死ぬことも十分考えられる。
生きて帰ったとて、街が焼かれ、帰る家も迎えてくれる家族も既にない者もいるだろう。

戦争は、まだ終わってなんかない。

生きて帰った者、残された者が、様々なものを失い、それでもその中で生きていかねばならぬ…

生きることは戦うこと。
皆の戦いは、まだ終わってはいないのだ。


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