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潮騒
第15章 食卓の風景 ー波間ー
「下関で…良太郎の配属された小隊の、後方部隊に居ったてヤツと会うたんやけど…」

浩二郎が静かな声で切り出す。

「南方で、良太郎の居った部隊に続くはずが、途中で後方部隊に退却命令が出たそうや…」

「退却命令が出たんやったら、生きとったら帰ってこれてるんやないん?」

素朴な疑問を口にした菊乃に、正一郎が苦々しく呟く。

「阿呆。後続部隊が来るはずやったっちゅうことは、軍備も何もそれを見込んどるんじゃ。水も兵站も最低限で動く。それが途中で来んようになるっちゅうのは、早い話が見捨てられたっちゅうこっちゃ。水も食いもんも迎えの船もない。そんなとこからどうやって帰ってこれるんじゃ。」

「そんな…酷い!」

「それが戦争や。全体の為に、個は切り捨てる。上が援軍を送っても勝ち目がないと判断したらそれまでや。南方のジャングルやったら、ちょっとの間は水も、果物やら木の実やら、食えるもんはあったかもしらんけど…毒のあるもんも多いしな。蛇やトカゲや食えるもんも獲れるかもしれんけど、火を使こたら敵に見つかるし、人がおった痕跡が残るから、基本火は焚かん。そんな中じゃ長いことは生きられん。」

敵に囲まれて、鉄砲で撃たれたり、爆撃に遭ったり、どんなにか恐ろしいだろうと思っていたが…
食べるものがなくなり、飢えて乾いて死ぬなど、哀れすぎる。
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