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潮騒
第16章 再会の夜 ー上げ潮ー
夜、夕食と風呂の支度、後片付けを終えると、正一郎が丁度風呂に入っていた。
菊乃は人目につかぬ様、そろりと家を抜け出し、向かいの棟の風呂に向かった。
軽く戸を叩き、そろそろと一寸ほど戸を開ける。
「なんや」
隙間から覗くと正一郎が怪訝な顔で振り返った。
「背中でも流そうかなと思って」
「…おぅ。」
さっと風呂場に入り、静かに戸を閉める。
正一郎と一緒に風呂に入ることなど無かったが、一度や二度の風呂では落としきれない戦場の垢を、きれいにしてやりたかった。
正一郎が湯船から上がり、小さな椅子に腰かけた。使っていた手拭いを脚に渡し、一応股は隠していた。
菊乃は単衣に襷を掛ける。替えの単衣もすのこの上に置いておいた。
綿布で糠を包み、糸で縛って、てるてる坊主のようにしたもので、正一郎の広い背中を擦る。
糠の油でよく垢が落ちるのだ。
手拭いと糠袋で、首や耳の裏、肩に背中に腰、踵の上など垢の溜まりやすいところをようよう擦った。
菊乃は人目につかぬ様、そろりと家を抜け出し、向かいの棟の風呂に向かった。
軽く戸を叩き、そろそろと一寸ほど戸を開ける。
「なんや」
隙間から覗くと正一郎が怪訝な顔で振り返った。
「背中でも流そうかなと思って」
「…おぅ。」
さっと風呂場に入り、静かに戸を閉める。
正一郎と一緒に風呂に入ることなど無かったが、一度や二度の風呂では落としきれない戦場の垢を、きれいにしてやりたかった。
正一郎が湯船から上がり、小さな椅子に腰かけた。使っていた手拭いを脚に渡し、一応股は隠していた。
菊乃は単衣に襷を掛ける。替えの単衣もすのこの上に置いておいた。
綿布で糠を包み、糸で縛って、てるてる坊主のようにしたもので、正一郎の広い背中を擦る。
糠の油でよく垢が落ちるのだ。
手拭いと糠袋で、首や耳の裏、肩に背中に腰、踵の上など垢の溜まりやすいところをようよう擦った。