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潮騒
第4章 嫁 ー細波ー
午後、昼食の後、義姉のチヨと姑のヨシが出掛けたのを見計らうように、舅の耕太郎に呼ばれる。
何かと緊張して部屋に向かうと、あたりを憚るように懐から紙包みを取り出した。
「菊乃さん。これは、儂からあんたにやれる最初で最後のモンや。嫁の立場じゃお母ちゃんにアレ買えのコレ買えの言われへんやろ。正一郎はあの通り、気の利く男やあらへんからな。」
そっと包みを開くと百円札が覗いた。
「…!」
百円と言えば、大学卒の初任給よりまだ多い。まず目にすることのない大金だった。
婚家が資産家やというのは本当やったんか…
目を丸くした菊乃の言わんとすることを察したように、耕太郎は目を閉じて首を振った。
「ええか。これは儂のなけなしやからの。次はない。誰にも言うたらあかんで。お母ちゃんにも、チヨにも、タエにも、正一郎にもや。あんたには、面倒かけると思う。正一郎は、中身は悪い子やないんやで。ちぃと難しいけどの。頼むで、辛抱したってや。」
「お義父さん…」
「あんただけが頼りなんや。サカキのトメさん言うたら、しっかりした嫁さんで有名やもの。その娘さんや、きっと正一郎ともやってくれると思うとるで。」
何かと緊張して部屋に向かうと、あたりを憚るように懐から紙包みを取り出した。
「菊乃さん。これは、儂からあんたにやれる最初で最後のモンや。嫁の立場じゃお母ちゃんにアレ買えのコレ買えの言われへんやろ。正一郎はあの通り、気の利く男やあらへんからな。」
そっと包みを開くと百円札が覗いた。
「…!」
百円と言えば、大学卒の初任給よりまだ多い。まず目にすることのない大金だった。
婚家が資産家やというのは本当やったんか…
目を丸くした菊乃の言わんとすることを察したように、耕太郎は目を閉じて首を振った。
「ええか。これは儂のなけなしやからの。次はない。誰にも言うたらあかんで。お母ちゃんにも、チヨにも、タエにも、正一郎にもや。あんたには、面倒かけると思う。正一郎は、中身は悪い子やないんやで。ちぃと難しいけどの。頼むで、辛抱したってや。」
「お義父さん…」
「あんただけが頼りなんや。サカキのトメさん言うたら、しっかりした嫁さんで有名やもの。その娘さんや、きっと正一郎ともやってくれると思うとるで。」