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潮騒
第4章 嫁 ー細波ー
泣きそうな顔で、義父は手をついて頭を下げた。
きっと、難しい正一郎の事で苦労してきたのだろう。
菊乃は、義父の気持ちを無にしてはいけない、と心に決めた。
「あの、正一郎さんのお嫁さんて、私の前はタエさんだけやったんですか?」
「あぁ、そない何人も離縁したりしやせんよ。あいつはずぅっと出稼ぎに行っとったけ。」
「よかった…他にも居ったらどうしようかと思いました…」
耕太郎は、困ったような顔で笑い、
「最初から、あんたんとこにお願いしたらよかったんやけど、ゼンエモンの…タエの父親とは同級での。向こうからお前んトコやったら娘をやってもええと言われたら…まぁ、断る話でもないわ。正一郎は乗り気やなかったけど、正一郎にも早う落ち着いて欲しかったしな、結局周りが押し切ったんや。それがあかんかったと言うたらそれまでなんやろうけど…両方が好き同士で縁談組める人間なんぞ、そうはおらんやろ。まとめてしまえば諦めると、思うた訳や。それが…なぁ…タエもタエやし、正一郎も正一郎や。あの二人はまぁ火と油みたいなもんやな。周りまで無事では済まん。あそこまで合わんとは流石に思わなんだわ…」
ホトホトと情けない溜息を吐く。
「お義父さんのご期待に添えるかわかりませんけど…出来るだけ頑張ってみます…」
その会話は、そこで終わる。
菊乃は、嫁入り道具として唯一持参した行李の底に、貰った百円札を大切に仕舞った。
この金は、この先何かと菊乃を、助けることになる。
きっと、難しい正一郎の事で苦労してきたのだろう。
菊乃は、義父の気持ちを無にしてはいけない、と心に決めた。
「あの、正一郎さんのお嫁さんて、私の前はタエさんだけやったんですか?」
「あぁ、そない何人も離縁したりしやせんよ。あいつはずぅっと出稼ぎに行っとったけ。」
「よかった…他にも居ったらどうしようかと思いました…」
耕太郎は、困ったような顔で笑い、
「最初から、あんたんとこにお願いしたらよかったんやけど、ゼンエモンの…タエの父親とは同級での。向こうからお前んトコやったら娘をやってもええと言われたら…まぁ、断る話でもないわ。正一郎は乗り気やなかったけど、正一郎にも早う落ち着いて欲しかったしな、結局周りが押し切ったんや。それがあかんかったと言うたらそれまでなんやろうけど…両方が好き同士で縁談組める人間なんぞ、そうはおらんやろ。まとめてしまえば諦めると、思うた訳や。それが…なぁ…タエもタエやし、正一郎も正一郎や。あの二人はまぁ火と油みたいなもんやな。周りまで無事では済まん。あそこまで合わんとは流石に思わなんだわ…」
ホトホトと情けない溜息を吐く。
「お義父さんのご期待に添えるかわかりませんけど…出来るだけ頑張ってみます…」
その会話は、そこで終わる。
菊乃は、嫁入り道具として唯一持参した行李の底に、貰った百円札を大切に仕舞った。
この金は、この先何かと菊乃を、助けることになる。