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潮騒
第4章 嫁 ー細波ー
子供の頃から、家に帰るのが遅くなったり、暗くなってから不用意に外を歩くと、薄暗がりでまぐわう男女を見かけたものだ。
初めのうちこそ何をしているのかわからなかったが、盛りのついた猫のようだ、と思った。
そして、盛りがつく、というのは繁殖行為であり、猫はそれをして子を産む。
いつしかそうして見かけた女が大きな腹をして子が出来た、と言っているのを聞いて、あぁ、そういうことか、と子供ながらに得心した。

新婚のうちは、寝間を分けてもらっているから、今なら布団の上で出来る。
…が、相手はあの正一郎だ。
あの男に、あらぬ処をまさぐられたりする、と考えただけで背筋がぞくりと粟だった。
初めは痛いというのも聞いた。あんな横柄で乱暴な男、絶対優しくはしてくれない。
一日中こき使われて、さらに痛めつけられるなんて、唯の拷問やないか。
私が何をしたっていうの。
今更ながら、両親を怨んだ。

そして、父の言葉を思い出す。
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