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潮騒
第5章 初夜 ー満潮ー
正一郎と帰宅し、大幅に遅れながら風呂と夕餉の支度をする。
いつもはそんなことはしない正一郎が、朝の漁でたくさん獲れた鯵を捌いて刺身にしていた。
「なんでアンタが造りなんかしてんの」
母のヨシの言葉に正一郎は、
「こいつにやらしたらトロ臭いけ魚が傷む。中骨に仰山身が付いて食うとこ無くなるやろが」
不器用ではないが、元々左利きの菊乃は、矯正しても包丁で小魚を捌くのが苦手だった。
悪かったな、どうせ魚捌くのは下手くそや。そんな言い方せんでもええがな…と思ったが、正一郎が手伝ってくれたおかげで、飯の支度は簡単に済み、いつもより少しだけ遅い程度だった。
膳を片付け、造りの中骨を猫にやる。
猫は、家で飼っている猫だが、正一郎は潔癖症で、外を歩いた猫がそのまま家に入るのを嫌った。
猫が小さい頃から捕まえては四つ足を雑巾で拭いて回っていたそうで、話を聞いた時は何を馬鹿なことをと思ったが、習慣とは大したもので、今ではこの家の猫は土間に置いた雑巾を踏んで足の裏を拭いてから上がってくる。その様子がなんとも可笑しく、菊乃はいつも頰が綻ぶのだった。
いつもはそんなことはしない正一郎が、朝の漁でたくさん獲れた鯵を捌いて刺身にしていた。
「なんでアンタが造りなんかしてんの」
母のヨシの言葉に正一郎は、
「こいつにやらしたらトロ臭いけ魚が傷む。中骨に仰山身が付いて食うとこ無くなるやろが」
不器用ではないが、元々左利きの菊乃は、矯正しても包丁で小魚を捌くのが苦手だった。
悪かったな、どうせ魚捌くのは下手くそや。そんな言い方せんでもええがな…と思ったが、正一郎が手伝ってくれたおかげで、飯の支度は簡単に済み、いつもより少しだけ遅い程度だった。
膳を片付け、造りの中骨を猫にやる。
猫は、家で飼っている猫だが、正一郎は潔癖症で、外を歩いた猫がそのまま家に入るのを嫌った。
猫が小さい頃から捕まえては四つ足を雑巾で拭いて回っていたそうで、話を聞いた時は何を馬鹿なことをと思ったが、習慣とは大したもので、今ではこの家の猫は土間に置いた雑巾を踏んで足の裏を拭いてから上がってくる。その様子がなんとも可笑しく、菊乃はいつも頰が綻ぶのだった。