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潮騒
第5章 初夜 ー満潮ー
その喘ぎ声が、男を昂ぶらせる事など菊乃には解らず、ただ、己の口から出たことのない、その盛りのついた猫のような声が耳についた。

子供の頃垣間見た、獣のようだと感じた男女の姿。それと同じ醜態を晒していると思うだけで、布団を被り込んで隠れてしまいたい。

せめてもの抵抗で、口を己の両手で塞ぎ、声が漏れぬように努めた。
口を塞いでいるから自然と鼻息が荒くなるが、それよりも自分の甘い声を聞く方が耐えられなかった。

秘処を探っていた正一郎が一瞬離れ、口元の手を掴まれる。

「隠すな、えぇ声をもっと聞かせろ。」

最後の砦だった両手を縫い付けるように頭の上で押さえられ、その生き物のような舌が乳房に戻る。もう片手は先程まで舌があった場所、小さな真珠をこちょこちょと弄られる。

柔らかい舌先とは違う、無骨な男の指先。
少し硬く、引っかかるような、それでいて傷付かぬように優しく弄られると、先程とは違う快感のうねりに飲み込まれる。
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