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潮騒
第2章 身代わりの花嫁 ー風波ー
「縁談…?」
ある夏の、暑い日だった。
開け放った縁側からは、更に暑さを増幅させる蝉の声しか聞こえない。
「そうや。サキゑ(さきえ)にな。」
母は冷めた目で仏壇を一瞥し、溜息を吐く。
「けど…お姉ちゃんは…」
「そうや。あの子は身体が弱い。とても嫁には出せん。」
「ほなら…」
「だから、お前を呼んだんや。菊乃(きくの)、代わりにお前が嫁ぐのやで?」
「え?」
思ってもみなかった言葉に、菊乃はパチパチと目を瞬かせた。
「え、やない。これはお父ちゃんともよう相談して決めたことです。文句はないな?」
あるに決まってる。
だが母に面と向かって口ごたえなどしたことのない菊乃は、あまりのことに何と言ったらいいのか言葉も出なかった。
「…うち、まだ十七やのに…」
やっと口から出たのはそんな戸惑いだけ。
「何を言うてるの。お母ちゃんやってこの家に嫁いだんは十八の時です。なんぼもかわらへん。」
ぴしゃりと言われればそれまでだ。
「お前はサキゑに顔だちも背格好もよう似てるから大丈夫や。きっと気に入ってもらえる。」
「うちは、お姉ちゃんの、身代りになるん…?」
「身代りやなんて人聞きの悪い。お前は末っ子やから今まで好き放題してきたんや。一遍くらいお父ちゃんとお母ちゃんの言う事聞きなさい。ええな。」
有無を言わさぬ口調で母は話を締め括った。
ある夏の、暑い日だった。
開け放った縁側からは、更に暑さを増幅させる蝉の声しか聞こえない。
「そうや。サキゑ(さきえ)にな。」
母は冷めた目で仏壇を一瞥し、溜息を吐く。
「けど…お姉ちゃんは…」
「そうや。あの子は身体が弱い。とても嫁には出せん。」
「ほなら…」
「だから、お前を呼んだんや。菊乃(きくの)、代わりにお前が嫁ぐのやで?」
「え?」
思ってもみなかった言葉に、菊乃はパチパチと目を瞬かせた。
「え、やない。これはお父ちゃんともよう相談して決めたことです。文句はないな?」
あるに決まってる。
だが母に面と向かって口ごたえなどしたことのない菊乃は、あまりのことに何と言ったらいいのか言葉も出なかった。
「…うち、まだ十七やのに…」
やっと口から出たのはそんな戸惑いだけ。
「何を言うてるの。お母ちゃんやってこの家に嫁いだんは十八の時です。なんぼもかわらへん。」
ぴしゃりと言われればそれまでだ。
「お前はサキゑに顔だちも背格好もよう似てるから大丈夫や。きっと気に入ってもらえる。」
「うちは、お姉ちゃんの、身代りになるん…?」
「身代りやなんて人聞きの悪い。お前は末っ子やから今まで好き放題してきたんや。一遍くらいお父ちゃんとお母ちゃんの言う事聞きなさい。ええな。」
有無を言わさぬ口調で母は話を締め括った。