この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
潮騒
第2章 身代わりの花嫁 ー風波ー
「菊乃。そんなとこに居ったら蚊に刺されんど」
夕刻。
昼間の母の話に衝撃を受け、近くの川原でぼんやりと座っていた。
声をかけてきたのは父の兵蔵(へいぞう)だった。
「お父ちゃん…ねぇ、なんでうちが嫁に行かなあかんの?この話は断られへんの?」
頭ごなしにものをいう母と違い、物腰の穏やかな父には何でも言えた。
父は申し訳なさそうに弱く微笑む。
「……堪忍やで、菊乃。先様にはお父ちゃんよう世話になっとってなぁ…サキゑを是非にと言われたら、よう断らんかったんや…」
世話になっている、というのは、恐らく金銭的なことなのだろう。
借金のカタに娘を寄越せと言ってくるなんて、きっとろくな家じゃない。
菊乃は自身の先が思いやられ、深い溜息を吐いた。
父は、この村の出ではない。
大阪の商家の三男坊で、若い頃、養子に来たのだそうだ。
商家でも三男坊ともなれば、店を継げるわけでもなし、よほどの才覚がなければ大抵はどこぞに養子に出されるものと相場は決まっている。
そんな一人だ。
夕刻。
昼間の母の話に衝撃を受け、近くの川原でぼんやりと座っていた。
声をかけてきたのは父の兵蔵(へいぞう)だった。
「お父ちゃん…ねぇ、なんでうちが嫁に行かなあかんの?この話は断られへんの?」
頭ごなしにものをいう母と違い、物腰の穏やかな父には何でも言えた。
父は申し訳なさそうに弱く微笑む。
「……堪忍やで、菊乃。先様にはお父ちゃんよう世話になっとってなぁ…サキゑを是非にと言われたら、よう断らんかったんや…」
世話になっている、というのは、恐らく金銭的なことなのだろう。
借金のカタに娘を寄越せと言ってくるなんて、きっとろくな家じゃない。
菊乃は自身の先が思いやられ、深い溜息を吐いた。
父は、この村の出ではない。
大阪の商家の三男坊で、若い頃、養子に来たのだそうだ。
商家でも三男坊ともなれば、店を継げるわけでもなし、よほどの才覚がなければ大抵はどこぞに養子に出されるものと相場は決まっている。
そんな一人だ。