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潮騒
第6章 日常 ー寄せ波ー
その年の夏、菊乃の実姉、はつ江の夫が海難事故で死んだ。
大工として生計を立てる、菊乃の兄の仕事仲間でもあったが、夏に貝を獲るために潜った際、道具の一部が岩に引っかかり、思うように外せず浮上できなくなったようだ。
陸に上がった仲間が姿が見えないことに気付き、探した時には既に水中で事切れていたという。
はつ江は十二歳を筆頭に四人の子を持つ母で、婚家は年老いた夫の両親が居るのみ。
到底生計を立てていくのは無理な話だった。
「菊乃…あんたなぁ…お金持っとらへん…?」
夫の初七日の後、菊乃の元に来て遠慮がちに聞くはつ江。
菊乃の持ち金と言えば、嫁に来た時、耕太郎に貰った百円だけだ。嫁して数年、義母に言いにくい消耗品などを少しずつ賄い、 幾らか使ったが、まだ半分以上は残っていた。
だが、そんなもの姉に渡したところで焼け石に水ではないのか、とも思った。
大工として生計を立てる、菊乃の兄の仕事仲間でもあったが、夏に貝を獲るために潜った際、道具の一部が岩に引っかかり、思うように外せず浮上できなくなったようだ。
陸に上がった仲間が姿が見えないことに気付き、探した時には既に水中で事切れていたという。
はつ江は十二歳を筆頭に四人の子を持つ母で、婚家は年老いた夫の両親が居るのみ。
到底生計を立てていくのは無理な話だった。
「菊乃…あんたなぁ…お金持っとらへん…?」
夫の初七日の後、菊乃の元に来て遠慮がちに聞くはつ江。
菊乃の持ち金と言えば、嫁に来た時、耕太郎に貰った百円だけだ。嫁して数年、義母に言いにくい消耗品などを少しずつ賄い、 幾らか使ったが、まだ半分以上は残っていた。
だが、そんなもの姉に渡したところで焼け石に水ではないのか、とも思った。