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潮騒
第6章 日常 ー寄せ波ー
「幾らくらい、要るん?」

「貸してもらえるだけ、全部。…私な、大阪に行こうと思う」

「大阪?何しに?」

夫が死んで間もないのになんでまた…

「あの人が亡うなった今、この田舎で子供四人育てるだけ稼げる職に就くんは無理や。だから、私、産婆になる。」

はつ江はきっぱりとした口調で言った。

「お義父さん、お義母さんにも、うちのお父ちゃんとお母ちゃんにももう相談はしてある。三年位子供の面倒を見てくれ、ってお願いした。いい顔はされへんかったけど、ここでくすぶってても堕ちて行くのは目に見えとるしな。だからもう決めた。死ぬ気で勉強して、生活の目途が立ったら子供は大阪に呼ぶ。だから、お願いや。いくらでもええ、あるだけ貸してもらえんか?」

はつ江は深々と頭を下げた。
きっと、二人の兄を始め、すべての縁者に頭を下げて回っているのだろう。
菊乃と同じく意志の強い姉は、やると言ったら必ずやり遂げる。
今回の決意もきっと並々ならぬものだろう。
菊乃は黙って頷いた。
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