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潮騒
第10章 出産 ー高波ー
ようやく自宅の塀が見えてきた。
そんな大きな屋敷ではない。ごく普通の家なのに、塀が途轍もなく長く感じる。

もう、少し…

あと、少し…


じわじわと腿を濡らしていた羊水が、血の色に変わり、菊乃は内股で崩れるように力を失った。
両脇を抱えている二人の肩にぐっと重みがかかる。

「もぅすぐそこやで!」

「気張れよ!」

口々に菊乃を励ます二人。

門をくぐり、家が見える。

「おばさん! おばさん居らへんの⁉︎
菊乃ちゃんが大変なんや!」

「おぉい!おばさん‼︎」

大声で呼んでも返事はなく、仕方なし二人は玄関の土間をくぐった。

「あたし中で使えそうなもん探すから、兄ちゃんちょっと菊乃を見たってよ!」

タツノは家に上がり、押入れを開けて手ぬぐいや服などをひとかかえ取った。
玄関のたたきにどさっと置いた時、菊乃が、

「あ、あ、あぁ…もぅ…無理…」

尻餅をつくように土間に崩れる。その脚の間から、肉塊のようなものが覗いた。
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