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いとかなし
第21章 きみにより おもいならいぬ
会社を出るとひんやりとした秋風が頬を撫でて行く。

「え…?啓司?!」

最寄駅へと向かう道路に車を停めて、啓司が小さく手を挙げていた。

「どうしたの?」

「仕事が空いたから」

糸は少し背伸びをして、啓司を覗き込む。

「…嘘、ちゃんと賢都くんに言ったか不安だったんでしょ?」

「…そうだよ、悪い?」

開き直った啓司の腕に、手を絡めて車へと向かう。

「信用ないの?私」

「信用してるよ、隙だらけだけど」

腑に落ちなくて唇を尖らす糸。

お洒落なレストランで食事をして、家路を辿る。

車を降りるとぎゅっと手を握って、目が合う度にどちらからともなく微笑みを零す。

この手を離さなくて良かった。

きっと同じ気持ちだ。
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