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いとかなし
第9章 こいしなん ゆくえをだにも
ベッドの上、啓司の腕の中でやたら心臓の音が大きく脈打つ。

余りの静寂に、この世に二人だけしかいない様な錯覚に陥る。

「糸…」

この部屋に響くのはキスと啓司が呼ぶ名前だけ。

「け…しさ…っふ…ンッ…」

温かくて大きな手が糸の頬を包み、優しく撫でる。

果てしなく続くキスに、糸は堪らなくなって啓司の首に腕を回した。

ちゅ…っと音を立てた唇が離れてしまう。

「もっと?」

「…もっと」

啓司はその答えに満足そうに目を細めて唇を寄せる。

「口、開けてね」

触れるか触れないかで告げられたそれに、糸は忠実に従った。

薄っすら開いた唇を塞ぎながら、啓司の厚い舌がゆっくりと差し込まれた。

胸が震えるほどの快感と悦びに、糸の回した腕に力が篭った。
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