この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
kiss
第8章 reach

「應治」
 濡れた声。
 ふやけそうなくらいキスをした後に、光樹が囁く。
「あと一時間の間にね、おれの首を絞めてほしいの」
 向かい合ったまま、二人の間に沈黙が下りる。
 光樹は笑ったまま。
 俺は無表情のまま。
「……厭だと言ったら?」
「どのみち、凜の手に渡るときにこれを飲むつもり」
 傍らに脱ぎ捨てた服を探り、錠剤を取り出す。
「一発で天国見れちゃう、素敵なお薬」
 俺はその細い手ごと握りしめた。
「なんで雨がすきなんだ?」
 戸惑った顔。
 そうだ。
 軽々死を語るよりも、その顔の方が似合っている。
 俺はそっと手を下ろさせる。
「なんで……そうだね。太陽はさ、乾かしてくれるけど、汚れは落としてくれない。雨は全部洗い流してくれる。おれね、あの河原が大好きなの。たまにあの濁流に飛び込みたくなるけど……」
「そうか」
「應治は?」
 自分の言葉をかき消すように急いで尋ね返す。
 たぶん、無意識に出た本音だったんだろう。
「俺は……さあ? お前が尋ねてきたときに、なんとなく答えてた」
「なにそれ」
「雨の中のお前がなんか、綺麗に見えて」
 額をくっつけて囁く。
「……なにそれ」
「今度は晴れの中で見たいなって思ったくらいだ」
「なに……」
 言葉が続かなかった。
 光樹は涙を手で覆う。
 その手には、新しい傷跡が増えていた。
「なにそれぇ……」
 泣き声が、雨の音に混じる。
 ザー。
 あの日よりも強い雨。
「おれは綺麗なんかじゃないのに」
「鏡見たことあるか?」
「あるよ」
 二人でくすくすと笑う。
 つーっと光樹が耳をなぞる。
「應治はピアスつけてないんだね」
「手入れが面倒らしいからな」
「だね」
 俺も手を上げて、光樹の耳に触れる。
 赤くただれた三つの鉄に挟まれた耳たぶ。
「これね。凜のお兄さんにつけられたの。外せないタイプなんだって」
「痛くないか」
「痛いよ。耐えらんない」
 こどもっぽく云う。
 弱音。
「あー。あと何分かな」
「俺の見た夢を教えようか?」
「え?」
「俺たちは運よく助かるんだ。あの向こうの部屋に突然やってきた正義の味方のお陰で」
「なにそれ。今までで一番笑えない」
 そう口ではいいながら光樹の頬は緩んでいる。
「應治は救ってくれないの? 他人任せ?」
/187ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ