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わけありっ、SS集!
第8章 都会

初めてそこを訪れた時、あまりの人の多さとネオンの眩しさにしばらく唖然としていた。
陰った夜空には月も星も見えず、人工的な光が目を焼くばかりだ。
コンクリートと巨大な人工物に埋め尽くされたその場所に、茶色い土はどこにもなかった。
――私はここが嫌いだ。
田舎育ちだった私は、いつだって土や木の匂いを嗅いで育った。虫だって怖くはないし、夜はいつも満点に広がった星空を見る。
こんな排気や騒音まみれの場所を好きになんてなれない。
そして何よりも、ここを好きになれない決定的な理由が一つあった。
私は心細さに両肩を抱き、目的の場所へと急いだ。
排気臭い生あたたかい風が肌を撫で、ひどく不快だった。
うつむき、汚れたコンクリートを眺めながら一人とぼとぼと歩く。
そうして顔を上げ、前もって教わっていた目印の建物を視界に捉えた時。
「遅いぞ」
ふいに声がした。
振り向くと、そこには数ヶ月ぶりに見る大好きな人の姿がある。
私は安堵し、思わず駆け出していた。
――私は都会が嫌いだ。
大好きな人を連れ去り、誘惑し、虜にし、故郷に返してくれないこの華やかすぎる街が。

