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すこし歪な愛の形
第1章 すこし歪な愛の形
『日本一の煙管生産地たぁこの苺田市よ。おいらは苺田紋次郎、よろしくお頼み申します』
ローカルテレビで流れるCMを見るたび、僕は思わずにやついてしまう。だって紋次郎は、僕の彼女が僕をモデルにして描いたキャラクターなんだから。
ああ、誰かに言いふらしたい。紋次郎は僕とちーちゃんの愛の結晶なんだってノロケたい。時計を見れば、もうすぐ夜。キャバクラの女の子達なら、僕が望んだとおりに持ち上げてくれるだろうか。
「いっくん、今キャバクラに行きたいとか思わなかった?」
すると背後から、笑顔のちーちゃんが迫る。笑顔だけど全然癒されない。振り返らなくても、黒いオーラを感じるんだもん。というかそもそも、なんでちーちゃんは僕の考えてる事が分かるんだろう。
「まさか……ちーちゃん、超能力者!?」
「お馬鹿」
最近ちーちゃんは、僕に対して口が悪くなった。前は馬鹿なんて、絶対に言わなかったのに。けれどちーちゃんに言われるならむしろ大歓迎というか、なんか新しい嗜好の扉が開いたというか。
要するに、ちーちゃんが僕を好きでいてくれるならなんだっていいんだ。
「いっくん、今日のご飯はいっくんの好きなハンバーグにしようと思ってるんだけど。キャバクラ行くならいらないかな?」
「え? 行かない、行かないから! ハンバーグの方がいい!」
「そう? それなら準備するね」
なんだか色々誤魔化されているような気がしないでもないけど、今日も平和だ。きっと明日も、変わらず平和だろう。
「ちーちゃん、今日の食後のお茶も、いつものほうじ茶にしてね!」
テレビに目を向けると、また紋次郎のCMが流れていた。
おわり