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すこし歪な愛の形
第1章 すこし歪な愛の形
「いっくん」
「え?」
「あたしは、いっくんがよかったの」
ちーちゃんの言ってる事は、よく分からない。僕が固まっていると、ちーちゃんは寝室のドアを開いた。
「今回は紋次郎に免じて、許してあげる。いっくん、片付け手伝ってくれる?」
「片付け?」
なんだかよく分からないけど、紋次郎のおかげで僕は助かったらしい。そして僕は言われるまま寝室を覗いて、言葉を失った。
積まれているのは段ボール。僕の荷物はそのままだけど、ちーちゃんの私物は何一つ部屋に置いていない。クローゼットを開ければちーちゃんの分の中身は空っぽだし、ちーちゃん専用になっていた本棚もがらんどうだった。
「片付け、手伝ってくれるよね?」
ちーちゃんの笑顔が怖い。いつの間に荷物をまとめたんだろう。朝に喧嘩した後じゃないよね、それじゃ荷物まとめるには時間が足りないし。
「ちーちゃん、朝ご飯食べてからにしない? 僕なんだか、貧血になりそう……」
「駄目。今すぐやらなきゃ、いつ気が変わるか分かんないし」
「すぐ片付けます!」
僕が慌てて段ボールのガムテープを剥がすと、ちーちゃんがくすくす笑う。手伝ってと言われたけれど、ちーちゃんが手を出す気配はなかった。