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あなたが教えてくれたこと
第7章 7
紫遠は隠れるように素早くそのドアの内側へと身を入れた。

時刻は午前十一時。人目を忍んで逢瀬を交わすには明るすぎる。秋空の爽やかな陽の下で若い男と密会するというのは、夜の闇に紛れて不実を働くよりも遙かに罪深い香りがした。

「紫遠が部屋に来ただけで華やぐな。このまま返したくなくなる」

普段なら心が発熱するような言葉も、今の彼女にはずぶ濡れのコートのように不快な重さに感じる。

「もう二人きりで逢うのはやめましょう」

遼平の悦ぶ顔がこれ以上強くなる前に紫遠は切り出した。
彼の笑顔は目許から消え、口許は強張ったように微笑みが残っていた。

「なんで?」
「こんなことしてても、何にもならないでしょ、お互い」
「何にもならないって、何かになりたくて俺を愛していたの?」
「そうじゃないけど。というか、そういう言葉の端を持ち上げるのはやめて。意地が悪いわ、そういうの」

子供を質すような、次元が違う大人の素振りをしてあしらう。

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