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あなたが教えてくれたこと
第9章 9
智哉はあからさまに聞きたかった答えと違うと言う顔をしたまま視線を逸らしてくれない。

「お父さんは家族のために働いてくれてるの。お母さんはおうちの中のお仕事をする。夫婦っていうのはそうやって支え合って生きていくの」

ありきたりなことを口にしていると、濁った池の底を掻き混ぜてるような不快感がこみ上げてくる。
智哉は納得するはおろか、見る見る表情を曇らせていった。

「……好きよ。お母さんはお父さんのこと、好き」
「嘘だっ」

間髪おかず、智哉は否定してくる。

「嘘なんかじゃ」
「嘘だ。お母さんはお父さんといて、笑ったところを見たことがない」

彼の言葉が胸に刺さった。
適当な嘘でごまかせる歳じゃなかった。
いや、年齢など関係ない。子供というのは親が思っているよりも遙かに両親の仲がいいか、敏感なものだ。

「お母さんにも、幸せになってもらいたいんだ……ずっと我慢ばかりしてないで……」

震える智哉の声に胸が締め付けられた。
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