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あなたが教えてくれたこと
第3章 3
紫遠の暮らす屋敷は外観も内装も洋館であったが、義父の部屋だけは和式となっていた。
義父の冨士雄(ふじお)は正嗣に代を譲ってからは肩書きだけの役職に収まり、趣味であるゴルフや囲碁などして余生を愉しんでいる。
義父が生きていた頃から夫婦二人でどこかに出掛けるということもなく、互いに干渉しない暮らしをしていた。

「この辺りでしょうか?」

畳にうつ伏せになった冨士雄の背中に親指で圧しながら問い掛ける。

「もう少し下だ」

大きく息を吐きながら義父が答えた。
紫遠は時折こうして彼のマッサージをさせられていた。
指圧をはじめて既に三十分が過ぎており、紫遠の親指は悲鳴を上げていた。
しかし力を抜こうものなら怒られるので、痛さを堪えて続けるしかなかった。

冨士雄の身体は七十代後半とは思えぬほどがっしりしている。
星崎建設の創業者である彼は、その身一つで会社を興した功労者である。若い頃は現場で自ら指揮を執り、肉体労働も厭わなかった。
その頃鍛えられた強靱な肉体は年老いた今でも健在である。
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