この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
霞草
第5章 想い
思い出したように彼女が
「父が気にしていたけど、ご家族に無事でいることを連絡した方がいいのでは…と」
そうだった。それは長居させてもらう条件だった。
「着いたら早速電話してみるよ。」
玄関脇の公衆電話から連絡する。
彼女は夕飯の支度があるからと奥に消える。
今なら、母親しか家にいないだろう。連絡するにはちょうどいい時間帯だ。
予想通り母がでる。
「どこにいるの、何してるの、」
一方的に泣き叫んでいる。
僕は無事でいること、
思いつきで飛び出したが、きちんとした宿にいること、
1.2ヵ月は滞在すること、
必ず戻るので捜さないで欲しいと、冷静に話した。
「せめて連絡先か住所、最寄り駅だけでも教えて欲しい。」
と言われたが、
それでは意味がないし、これからも時々連絡すると言い、受話器を置いた。
何故か
「ごめんなさい、だから帰ってきて、」
と繰り返していた母。
別に、母が謝ることではないのに…。
僕は、部屋に戻る。
何気なくパンフレットを眺めた。
父は内科医、兄貴は外科、医者といっても色々あるのだ。
医者なら何になる?それすら考えていない。
教師かサラリーマン。
サラリーマンて、会社に雇われて何をするのか?それにしても、思い当たる職業がそれしかない。