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霞草
第5章 想い

部屋のドアをノックする音、

「夕飯できたよ。下で呼んだけど気付かないようだったから…」

霞の声だ。

部屋を出て、彼女と一緒に食卓につく。

訊かれる前に皆に話した。

医者の家系に生まれたこと、受験に失敗したこと、
予備校に入るように言われて家を飛び出してきたこと、
これからどうするのか考える時間が欲しくてここにいること。

一気に話した。


おじさん、おばさん、霞が真剣に聞いてくれた。

おじさんが口を開く、

「生き方なんて簡単に決められないよな。
坊主、それに気付くだけでも儲けモンさ。人生幾つになってもやり直せる。

お医者様なんて人の命に関わる仕事だ。親に言われて嫌々できるモンじゃない。

その道に進むにしろ、今回立ち止まって考え直すチャンスがあったってことは恵まれてるよ。」

そう言っておじさんはグイッと酒を呑んだ。

僕は驚いた。医者の父兄が、他人様の命を預かる仕事と言ったことがあっただろうか。

手術の技術、病床数の心配、製薬会社との交渉の話は嫌というほど聞いてきたが…。

僕は痛感した。閉鎖的な偏った環境の中で随分歪んで不幸な成長をしてしまったことを…。

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